マインクラフトをただのゲームではなく、教育の分野へ浸透させようと活動を続けているタツナミシュウイチさん。
「江戸の夏~盆踊り~(EDO BON DANCE)」で得た売り上げの一部で東京学芸大学附属小金井小学校にマウスコンピューターのサイネージモニターを寄付した。
なぜ寄付をしようと思ったのか、ICT教育の最先端を取材してみた。
タツナミシュウイチさん ステータス
タツナミシュウイチさんステータス
鈴木 秀樹教諭 ステータス
鈴木 秀樹教諭ステータス
佐藤 牧子養護教諭 ステータス
佐藤 牧子養護教諭ステータス
戸松
マインクラフトのワールド販売で得た収益を、ICT教育現場へ寄付したというお話をお聞きしましたが、タツナミさんは何を寄付されたのでしょうか?
タツナミさん
ICT教育の現場でタブレットを写す、また子供たちがプレゼンを気持ちよく行えるよう、マウスコンピューターのサイネージモニターを寄付しました。
鈴木先生
絵本の読み聞かせスペースにいただいたモニター置かせていただきました。
教員の打合せをやることもあるのでちょっと資料を映したりするのにも、やはりディスプレイがあるのとないのとでは全然違いますね。
佐藤先生
これまでは、打ち合わせをする時には古いプロジェクターを持って来なければならなかったので大変でした。ディスプレイになって、資料も読みやすくなり助かっています。
タツナミさん
10人、15人ぐらいが見てくれる分には何とかなりますかね。
鈴木先生
まったく問題ありません。
タツナミさん
ありがとうございます。
子どもたちに使ってあげてください。お願いします。
戸松
実物が自分の想像と全然違うものでした。
もっとなんか小っちゃいものだったのかなとか思ってたんですけど。
かなり大きい立派なモニターですね。
タツナミさん
いやいや、学校で使うって言ったら……これでも小っちゃいほうだと僕は思ってるんで。
本当はもっと大きいサイズのサイネージモニターを用意して、後ろの席に座ってても見えるっていうぐらいのレベルのほうが本当はよかったんですけど。
鈴木先生
コロナが収まって、普通に子どもたちを集めて読み聞かせができるようになったときでも、このサイズは丁度いいのではないかと思います。
絵本の読み聞かせは、先生が前の方で本を開いて行うのですが、どれだけ密に座っていても後ろの子は見えていません。
タツナミさん
なるほど、そうなんですね。
鈴木先生
ですから、そういう意味では、距離感という意味からいっても、これは割といいサイズだなと思いました。
特に1年生、2年生あたりにはいいのではないかと思います。
タツナミさん
よかったです。そう言っていただけると。
最近は子どもたちがモニターにつないでプレゼンすることもざらにやるから。
戸松
それが普通なんですね。凄いですね。
時代が進むにつれて進化してきてますね。
タツナミさん
そうそう、デジタル黒板みたいな感じですよね。言ってみれば。
僕が思うに日本って寄付文化がまだまだ少ないと思っていて、特に学校ってお金がなかったり大変な思いをしているんで、その実情を社会が知らなければいけないんですよね。
割食ってんのは子どもたちなんですよ。
運がよければ最近はタブレットが1人1台の時代だけど、運が悪けりゃ2人1台。
で、1人1台与えられたけど、マイクラすらできない、タブレットで。
やりたいのにできないみたいなところもざらにある中、やっぱりそういうのはちゃんと企業とかが協力するべきことなので。
そこをうまく広めたいなっていう、思いがずっとあったんですよね。
戸松
なるほどそういった思いがあったんですね。
鈴木先生がICT教育に力を入れようと思ったきっかけとかってございますか。
鈴木先生
私はもともとずっと1人1台タブレット……というか、タブレットが世の中にない時代からコンピューターを教育に使えないか、という試みを続けてきていました。
戸松
そうなんですね。
鈴木先生
この学校に着任したのが2016年です。
予算の厳しい学校なので、いろいろと策を練って何とかタブレットを入れて、子どもたちが使えるような環境を整えられないか、試みていました。
やはり、タブレットがあることで子どもたちの活動がすごく広がるので、これからの学びに欠かせないとずっと思っていました。
戸松
今は小学生でも1人1台スマホを持ってる時代とか、タブレットを1台持ってる時代というのになってきたとおもっていて、僕の時代なんて携帯電話1台すら持ってなかった時代があったわけで。
その流れの中で、鈴木先生は何がきっかけでお子さんにタブレットを持たせる、または学校に導入して教育に取り入れていきたいっという風に思ったんでしょう。
鈴木先生
私の場合は、学校の中に必ず一定数いる何かしらの事情で学びに困難を抱えている子どもへの支援をICTでできないか、と思ったのがきっかけです。
例えばディスレクシアと言って、読むことに困難を抱えていたり、書くことに困難を抱えていたりする子がいます。
そういう子たちがICTを使えば、もっと読みやすくなったり、書きやすくなったりするのではないか、という思いがありました。
タブレットを導入すれば、それをある程度実現できるという確信があったので、導入したい思いは強かったですね。
戸松
なるほど。何か問題があって学校に来れない、授業を十全に受けられないような子どもたちのためにタブレットを導入していきたいっていう原動力があったっていうことですね。
鈴木先生
学びに何らかの困難を抱えている子どもは、そんなに大勢いるわけではありません。
では、そうした子にだけタブレットを使っていいよ、ということにしたらどうなるか。
クラスの中で自分だけということになると、どうしても周りから浮いてしまう。
そうするとやはり使いにくいわけです。
しかし、みんなが使っているのであれば、周りを気にせず使えるようになる。
だから、タブレットは1人1台必要だと考えていました。
戸松
なるほど。鈴木先生はこちらの学校に着任する前から、こういう教育系のお仕事をされてたんですか。
鈴木先生
教員になったのが1990年で、それからずっとやっていますので、そうなりますね。
タツナミさん
実はお二方ともテレビにも出てらっしゃいますし、ネットニュースとかにも、お二方とも出てらっしゃるぐらいのすごい先生なんですよ。
戸松
なるほど、そうだったんですね!
すみません、勉強不足で存じ上げなかったです。
鈴木先生
いえいえ。そんなにすごくないですから。
佐藤先生
(笑)
タツナミさん
東京圏のICT教育の最先端をまさにいってる先生方なので。
ここ最近……、もともとは千葉のほうの小学校でずっと最先端教育をやってらっしゃった小池先生という方がこちらにジョインされたんです。
戸松
なるほど、志を同じくした方がいらっしゃったんですね。
タツナミさん
鈴木先生のところだったら、そうだよね、行きたくなるよね、分かります。僕もそうですと思って。
鈴木先生
スタッフはかなり強力になったな、と思います。ただ、本当に国立って予算が厳しいので、いろいろと苦労しています。
ICTはどうしてもお金がかかるので、その問題をどうにかしなければならない、というのは常にある課題ですね。
タツナミさん
民間が何とか頑張って子どもたちの将来のためにお金をつぎ込むっていうことを当たり前にしていかないと、国だとか自治体から来るだけのお金じゃとてもじゃないけど足りないんですよ、現状。
もうちょっと民間に頑張ってもらわないといかんぞって訴えて僕はやっているので、メッセージとしてうまく伝わってくれればいいなと思ってます。
戸松
そうですね。将来性という面だと、子どもたちがいろいろ学んでくれたりするっていうのは日本の未来のためにもなりますし。
もちろん子どもたちのためにもなると思うので、こういう活動を自らできるのはすごいなって感動しました。
タツナミさん
実は知らない人多いんですけど、ここってあのマインクラフトをつくったMOJANG STUDIOSの精鋭たちが来た学校なんですよ。
タツナミさん
2年ぶりぐらいに、シアトルで……。学術研修で僕は1回シアトルに行ったことがあるんですけど、教育版マインクラフトであるエデュケーションエディションを作ってるリーダーの方がいてその方と2年ぶりぐらいに再会することができたのがここなんですよ。
本当、聖地なんですよ。
佐藤先生
聖地(笑)
戸松
そうなんですね。知らず知らずのうちに僕は聖地に入ってたんですね(笑)
鈴木先生はタツナミさんから寄附というか、こういう贈呈があるって聞いたときはどういった心境だったんでしょうか。
鈴木先生
さっきから出ている話ですが、予算は本当に厳しいわけです。公立の学校の場合には、これも様々ですが、一応自治体がお金を出すわけですよね。
小金井市の学校だったら小金井市が学校向けの予算を出すわけですが、国立大学附属学校の場合は自治体からの援助は全くありません。
戸松
え!そうなんですか!
鈴木先生
全くないです。
国からの運営交付金というのはありますが、それは年々減らされていっています。学校を運営するための最低限の予算は出ますが、それ以上にプラスアルファで何かしたいと思ったら、もう自分で取ってくるしかないです。
戸松
なるほど。結構シビアなんですね。
鈴木先生
それで、我々の戦略としてやっているのは、例えば文部科学省の委託事業です。委託事業に採択されれば、その事業費を得ることができます。その事業を進めるために事業費を使っていくわけですが、結果的に学校の中の環境も整っていくといった戦略でやっていました。
そうしたことを進めた結果、環境はかなり良くなってきたのですが、民間の方からの寄附というのは基本的にないんですね。ですから、今回タツナミさんからお話をいただいたときは、嬉しいのはもちろんですが、新しいジャンルが開かれたという感覚がありました。
タツナミさんからのお申し出は、「ディスプレイを寄附しますので、それで何かいい教育をしてください」というもので、こちらにイニシアチブを与えてくれるような形でした。それも今までと全然違いますね。
よく欧米の大学だと企業からの多額の寄附がありますよね。
戸松
はいはい、ありますね。
鈴木先生
構図としてはそれに近いものが、初めて我々もできたなと思いました。そういう意味で、すごく価値が高いことだと思いました。
佐藤先生
大学の附属学校は、公立学校などの実践モデルとなるような研究を提供していくっていうことが役割の一つです。
子どもたちの学びをもっと広げたり、深めたりするためには、学校だけでは限界があります。
例えば保護者や関係の企業の方、そういった人たちにも広まっていくと、また違う力とかが生まれてくるのではないか?ということを常々話していたので、今回タツナミさんのお話を伺って、これまでの取組は、伝わったのではないかと思い、すごく嬉しかったです。
校内だけではなくて、全国の学校や教育、子供たちにかかわる人たちに広がっていくと、それはすごくやってて意味があることだと思っています。
戸松
やはり何かを変えるときっていうのは周りの協力がないと厳しいものがありますよね。
鈴木先生と佐藤先生の強い思いがしっかりと周りの方に届いたんだと取材していて感じました。
ICT教育の最先端を行く東京学芸大学附属小金井小学校ですが、具体的に学校でどういった施策を講じられていますか。
鈴木先生
どういった施策を、というレベルではなくて、子どもたちがみんなタブレットを持っているので、基本的にはどの授業でも使います。
ですから、特別なことというのはないですね。
戸松
なるほど。
では、具体的にタブレットっていうところにフォーカスを当てると、どういった授業をされているのかっていうのがすごい気になっていて。
僕の時代なんて黒板に写したものをそのままノートに書き写すっていうような授業形態だったんで、そこにタブレットが入ってくることで授業がどう変わるのかっていうのがあんまり想像できないんですよね。
鈴木先生
おっしゃるとおり、昔の授業は先生が黒板の前にいて教科書を読んだり、ひたすら話したりして45分が終わる。
そんな授業をイメージされるかもしれませんが、今は子どもたちがタブレットでもって自分の考えをまとめることもできるし、そのまとめたものをクラスの中で共有して、お互いにコメントをつけ合うみたいなこともできます。
そうすると、そういう活動のための時間をたっぷり取ってやることが学びにつながるので、教師が話す時間はなるべくミニマムにしています。課題を明らかにして、あとは子どもたちの活動に委ねる。そうした授業に変わってきています。
戸松
なんか結構実践的な感じなんですね。
コメントっていうのは、クラス内のローカルSNSみたいなイメージでしょうか。
鈴木先生
そうです。
戸松
凄いですね。
なんか全然想像つかないですね。
コメントつけたり、いいね押したりとかするってことですか。
タツナミさん
アクティブラーニングって呼ばれてるやつですね。
戸松
なるほど。じゃあ、子どもたちは基本的にペンとかは使わず、タブレットに打ち込むたいな感じなんですか。
鈴木先生
もちろん、ノートに書くこともないわけではありませんが、タブレットを使うことは格段に増えました。その方が便利という機会は多いですからね。
ノートに書いたときでも、それをタブレットで写真に撮って送れば、みんなからコメントをもらえるわけです。
ですから、全然タブレットを使わないということは非常に少ないですね。
戸松
子どもたちからしたら結構うれしいんじゃないですか。
反応もらえるとか、共感を得てもらえるってことですもんね。
鈴木先生
もちろんうれしいです。だから、学習が進むわけです。
今までは、黒板を一生懸命ノートに書き写しても、別に誰も褒めてくれなかったわけです。それが、今は自分の考えをきちんとまとめれば、友達からコメントをもらえるわけで、やはり意欲は全然違いますね。
授業とは関係ありませんが、「5月5日なのでお餅を作りました」みたいな投稿を子どもがすると……。
鈴木先生
周りから反応がもらえるわけです。他にもレゴをひたすら作る子がいて、その写真を送ると作ったものに対して友達から反応があるわけです。
戸松
うんうん、すごい!
だって、僕が投稿してるツイートよりいいね数多いですよ!(笑)
(一同笑)
佐藤先生
小学校の高学年くらいになると、学習では同性の方に意見がよりがちになります。例えば女の子の発言に対して、男の子が質問するとかがあんまりないと思いますが、SNS(チャットなど)だと、男女関係なく自然な会話が発生します。
こうした様子は、タブレットがあるからこその関係なのだと思いましたね。
戸松
すごいですね。
タブレットが次世代の新しいコミュニティーツールになってますね。
佐藤先生
そうですね。
日常生活で話さないけど、学習でのチャットで話し合うっていうことは自然になっています。仲良さそうに会話してますよ。(笑)
その経験が日常生活に影響することもあります。
鈴木先生
タブレットで使うアプリにも、子どもによって得意不得意があります。先日、マイクラをクラスでやったときも、マイクラを全然やったがことないという子もいるわけです。そうすると、ふだん口数の少ないマイクラに詳しい子が頼りにされていました。
タツナミさん
私のことだ。
(一同笑)
鈴木先生
そういうことが、マイクラだけではなくてパワポでも何でも起こるわけです。そういう意味では関係がフラットになりやすいようなところはある気がします。
クラスで授業をやっている上では、悪いところがクローズアップされるようなことはないですね。
戸松
今までのお話聞いてると、全国の小学校で導入してほしいなって思っちゃいますね。
鈴木先生
タブレット自体はGIGAスクール構想で全国の学校に入ったわけですけれども、ずっと保管庫に鍵をかけて使わせていませんとか、使えるのは週に1時間だけです、みたいな学校もあると聞きます。
戸松
鈴木先生の中で、学校をこうしていきたいとか、子どもにこういう教育したいとかっていうイメージはあったりするんですか。
鈴木先生
これは私だけの力でどうにかなるものではありませんが、学校のカリキュラムがもっと変わっていかないと厳しいと思いますね。
例えば、マイクラを授業に取り入れようというのでも、必ず言われるのが、「それは何の授業でやるのですか?」ということです。時間割はあるわけだから、そのどこでやるの?というわけですよね。
何々の授業のこの単元でこういうふうにマイクラを使います、と言えば納得はしてもらえますが、そんな小難しいこと言わないで、ちょっとマイクラやろうよ、でいいのではないかと思うのですよ。
だけど、日本の学校カリキュラムにおいては、そうはいかない。かなりがちがちで固まっているのです。
もうちょっと各学校に自由度があってもいいのではないかと感じています。全てフリーにしろとは言いませんが。国語、社会、算数…というのがだいたい何時間かは決まっていていいのですが、もうちょっと自由にできる時間があってもいいのではないか、と思います。
戸松
あの時間割って学校で決めてるわけじゃなくて、国によって決められてるんですね。
鈴木先生
学習指導要領というのがあり、それで年間に何時間はやりなさいと決められています。
その枠の中でどうやっていけばいいのかは、なかなか難しい問題です。「こういうふうにやったらうまく回りました」といった実例を1つでも2つでもつくれるといいなと思います。
戸松
なるほど、分かりました。
長々とお時間いただきましてありがとうございました。
国立学校が色々なものを切り詰め、先生方が苦労しながら運営している現状を初めて目の当たりにし、とても大変な現場で熱意を持って働いてらっしゃるんだなと感銘を受けました。
マインクラフトというゲームで収益を上げ子どもたちの学習へ還元するような行動、思いはゲーム業界全体にとっても良い結果となって返って来ることだと思います。
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